サイケデリック漂流記 -133ページ目

カッコーの巣の上で


シスコサイケ特集にちなんで、関連のある映画をひとつ。
なんで「カッコーの巣の上で」とシスコサイケが関係あるのかというと、この映画の原作者のケン・キージーが、シスコのドラッグカルチャーのゴッドファーザーのような存在だったからです。

ケン・キージーは、アレン・ギンズバーグやジャック・ケルアック、ウィリアム・バロウズといった人たちと交流のあった、いわゆるビートニクの出身で、ビートジェネレーションとヒッピー(フラワー)ジェネレーションの橋渡しとなった人物です。

彼はLSDの開発段階で臨床実験に参加し、60年代半ばにメリー・プランクスターズと呼ばれたヒッピー集団を率いてバスで大陸を横断して、アシッドテストなどを広めました。そのバスというのが、音響設備を載せサイケにペイントされた、いわゆる「マジックバス」で、ザ・フーのMagic Busや、ビートルズのマジカルミステリーツアーなどにも影響を与えました。そして、このバスを運転していたのが、ジャック・ケルアックのビート小説「路上」のモデルでヒッピーの教祖、ニール・キャサディです。

ケン・キージーとメリー・プランクスターズ、それにかかわるグレイトフル・デッドなどシスコのサイケデリックシーン(当Blog記事参照)の狂騒は、トム・ウルフのドキュメンタリーノベル「クール・クール LSD交感テスト」(原題:The Electric Kool-Aid Acid Test)に詳しく描かれています。

さて、前置きが長くなりましたが、「カッコーの巣の上で」のお話。この作品は今観ると少々ベタな感じがするかもしれません。精神病院で権力をふるう婦長が体制や管理社会、そして患者たちが抑圧された弱者を象徴している、というわりとわかりやすい図式。しかし、LSDというのが擬似的に精神分裂のような症状を引き起こすクスリであったこと。ジャック・ニコルソンが演じるマクマーフィーのキャラクタは原作者自身がモデルらしいこと(実際のキージーの方がもっと破天荒なくらい)。患者たちを病院から外に連れ出して、自由に生きることの喜びを味わわせようとしたのがバスツアーだったこと。などからして、これはメリー・プランクスターズのことを暗示してるのだ、と深読みして観るのも一興かもしれません。

ところで、この映画、今観て一番面白いと思うのは、なんといっても患者たちを演じる役者の顔ぶれでしょう。ブラッド・ドゥーリフ、ダニー・デビート、クリストファー・ロイド、マイケル・ベリーマン、ウィル・サンプソン(写真左上→右下)・・・。その後エキセントリックなキャラクタでスクリーンに登場するこれらの俳優の多くが、本作で実質上の映画デビューを飾ったのでした。彼らが演じる「異常者」たちの、なんと個性的なことか! この映画に登場する「健常者」たちよりもはるかに豊かです。

本作は70年代の映画ですが、テーマや暗示しているものからすると、私が好きな60年代のメンタリティで綴られているように感じます。今から見ればガキっぽく、ナイーブにすぎるかもしれませんが、私はそういった非現実的な夢を描いたり、現実から離れて別の世界で遊んだりすることが恥ずかしくなかった時代にあこがれます。


タイトル: カッコーの巣の上で ― スペシャル・エディション

関連記事:
ケン・キージー インタビュー
ケン・キージー インタビュー(聞き手:佐野元春)

第8回 Big Brother & the Holding Company


アーティスト: JANIS JOPLIN
タイトル: Cheap Thrills (Exp)

ホールディング・カンパニーといえばジャニス・ジョプリンですが、のちに彼女のバックをつとめたコズミック・ブルースバンド、フルティルト・ブギーバンドとはちょっと違って、彼らはもともとシスコで活動していたバンドでした。ジェファーソン・エアプレインのグレース同様、ジャニスは女性ボーカリストとして途中から加わったメンバーの一人という位置づけです。

ところが、67年のモンタレー・ポップフェスでの圧倒的なパフォーマンスでジャニスは一躍脚光を浴び、メジャーレーベルと契約して発表したアルバム「チープ・スリル」が大ヒットしました。そうなると、もともと歴然だった能力の差にお互い気まずくなったのか、ホールディング・カンパニーとはそれきり袂を分かつことになります。

ジャニスのファンの中には粗野な感じのこのバンドが好きでない人もいるようですが、私はホールディング・カンパニー時代のジャニスの方がナマな感じがして好きです。マイナーレーベルから出されたデビューアルバムは、はっきりいって演奏もプロダクションも内容も良い出来とは言い難いのですが、まるでスタジオリハーサルをそのまま録ったかのような若々しさが新鮮です。

ちなみに、ジャニスがテキサスからシスコへ出て活動を始めたのは意外に早く、まだフラワームーヴメントが起こる前の60年代はじめごろのことでした。当時、のちにJAのメンバーとなるヨーマ・カウコネンらと組んでフォークやブルースを歌っていたこともあります。


アーティスト: Big Brother & the Holding Company
タイトル: Big Brother And The Holding Company


アーティスト: Big Brother & the Holding Company w, Janis Joplin
タイトル: Live at Winterland `68

第7回 Quicksilver Messenger Service



アーティスト: QUICKSILVER MESSENGER SERVICE
タイトル: Quicksilver Messenger Service

デッド、JAと並んでシスコの看板バンドだったのが、このQMSです。皮肉なことに、リーダーだったディノ・ヴァレンテがドラッグ所持で収監されている間に制作された最初の2枚のアルバムが、シスコサイケの名盤として有名です。

彼の復帰後はラテン風味のいなたい感じのロックになってしまったのですが、いかにもシスコ的な音で私は嫌いではありません。ただ、サイケファンにはあまり評判は良くないようです。(ディノの名誉のために言っておくと、復帰前に発表した唯一のソロ作はアシッド・フォークの傑作です。またいつかここで取り上げます。)

このバンドの一番の個性はなんといってもジョン・チポリナのギターでしょう。トレモロアームを痙攣のように震わせながらサムピックで奏でる独特のプレイは、ちょっと暗くて湿ったようなシスコサウンドと非常に親和性が高く、一度ハマるとやみつきになってしまいます。

フォークロック的なアプローチから次第にサイケ感を醸成させていくような1stも大好きですが、これぞシスコサイケ!というトリッピーなジャムを満喫させてくれる実況録音盤の2nd(Happy Trails)もファン必携という感じです。


アーティスト: Quicksilver Messenger Service
タイトル: Happy Trails

第6回 Jefferson Airplane



アーティスト: JEFFERSON AIRPLANE
タイトル: After Bathing at Baxter`s (Rmst)

グレイトフル・デッドとともにシスコの2大巨頭といわれたのがジェファーソン・エアプレインです。デッドがロックビジネスの世界からは距離を置いた独自の道を歩んだのとは対照的に、こちらは常に表舞台の華やかなスポットライトの中にいたバンドという印象があります。

シスコ勢の中で最初にメジャーレーベル(RCA)と契約したのも彼らでした。そして、Somebody to Love(邦題「あなただけを」)の世界的なヒットで、名実ともにシスコサウンドを代表するバンドとなりました。

このバンドの素晴らしいところは、強烈な個性を持つ独特のスタイル(特に男女3人がリードを取って自由に絡み合うようなボーカルスタイル)と、演奏能力の高さ、そしてアルバム作品のクオリティの高さという、三拍子が揃っていることでしょう。60年代のアルバムはどれを買ってもハズレなしという感じです。

特にこの3枚目のスタジオ作のAfter Bathing at Baxter'sは、トリップ感覚をトータルアルバムのかたちで表現した、サイケデリックミュージックを代表する傑作だと思います。これもベストテン級のライブアルバム、Bless Its Pointed Little Headもオススメ。


アーティスト: JEFFERSON AIRPLANE
タイトル: Bless It`s Pointed Little Head (Rmst)

第5回 Grateful Dead


アーティスト: The Grateful Dead
タイトル: Anthem of the Sun [Bonus Tracks]

前回CJ&Fishを取り上げたので、今回からいくつか続けてシスコサイケを代表するバンドを紹介しておきます。その前になぜサンフランシスコがサイケのメッカになったのかというお話を少し・・・。

もともとサンフランシスコというのは、外国人やボヘミアンや山師のような人たちが多く集まってできた人種の坩堝のような街でした。また、ニューヨークで生まれたビートジェネレーションの旗頭であったアレン・ギンズバーグやジャック・ケルアックといった人たちが流れつき、ビートニクの聖地となったのも、この地でした。

60年代半ばごろ、その一角のヘイト・アシュベリーという地区に、さまざまなアーティストやその卵たちが移り住んで共同生活を始めました。はじめはお金がないために部屋をシェアして家賃を安くあげるためでしたが、しだいにそれがコミュニティのようなものに発展し、いわゆるヒッピー文化が誕生したのです。そして、彼らの表現活動に決定的な影響を与えたのが、当時新しく化学的に合成されたケミカルドラッグ、LSDでした。そのドラッグ体験がアートや音楽に反映されたものがサイケデリックと呼ばれたのです。

実際そのヘイト・アシュベリーに住んで、フリーコンサートやアシッッドテスト(出演者と観客が同時にドラッグ体験するイベント)を実践した中心的な存在だったのが、このグレイトフル・デッドです。

上に挙げたアルバムは68年の2nd(邦題「太陽の賛歌」)で、デッドのタイトルでは最もサイケ色の強いもの。ライブとスタジオの演奏をコラージュのように貼り合わせた混沌とした音像がサイケ心をくすぐります。

その次のスタジオ作のAoxomoxoaも大好きですが、ロック史上でも有数の名盤といえるライブ作のLive/Deadも素晴らしい。


アーティスト: The Grateful Dead
タイトル: Aoxomoxoa [Bonus Tracks]


アーティスト: グレイトフル・デッド
タイトル: ライヴ/デッド

Ray/レイ


もっと早く観に行くつもりだったんですが、押しに押して、ようやく観ることができました。その間、ブログの記事なんか見てると、「前評判は良かったのに期待はずれ」といった否定的な感想が結構あってちょっと心配だったんですが、それも杞憂で、予想した以上に楽しんで帰ってきました。良質な「音楽映画」として素直に感動できました。

ジェイミー・フォックスの演技が取り沙汰されることが多く、確かに少し前に初めてこの人を見た「コラテラル」での印象とはまったく別人のようです。しかし、この映画の主役はあくまでレイの音楽だと思います。極端にいうと、ストーリーや人間ドラマの部分は、映画にちりばめられたレイの曲を紹介するまでのネタふり。だから、音楽に興味がない人が観たら、「底が浅い」「お話がつまらない」と感じるのも無理ないかもしれません。(私はお話の部分もじゅうぶん面白かったですが。)

これは音楽映画の宿命というか、たとえばアクション・コメディとしてだけでも楽しめる「ブルース・ブラザーズ」のような映画でも、スタックスとかBooker T & the MG'sとかに思い入れのある人が観ると、感動の度合いがまったく違うでしょう。ちなみに、レイ・チャールズもこの映画に楽器店主の役で出てましたね。(私はこのレイの歌のシーンが大好きです。)


そういう私も、特にレイ・チャールズのファンというわけではなく、アルバムも一枚も持ってません。しかし、「Ray/レイ」を観て、あらためて彼の音楽のパワーに圧倒されました。いまでこそクロスオーバーやルーツ・オリエンテッドな音楽はあたりまえになっていますが、レイが初めてポピュラーミュージックにゴスペルを取り入れたり、ジャズやブルースやカントリーを融合させたりといったパイオニアとしての偉大さを再確認しました。もしも彼がいなかったら、ロックミュージックも、まったく違った道を歩んでいたかもしれません。

第4回 Country Joe & the Fish



アーティスト: Country Joe & the Fish
タイトル: Electric Music for the Mind and Body

このバンドは私が便宜上チープサイケと呼んでいる部類の代表選手です。チープといっても、必ずしも演奏がペラペラで安っぽいものとは限りません。ポイントはオルガンの音色にあります。

ハモンドオルガンのような「上等」な音ではなくて、通称チープオルガン(そのまんまですが)と呼ばれてる種類のやつ。ドアーズなんかもこの部類ですが、CJ&Fishのオルガンはもっと激しくチープで、俗に激チープオルガン(そのまんまですが)と呼ばれています。私を含め、サイケファンにはこの激チープオルガン愛好家が多いので、レコ屋やオークションの売り文句によくキーワードとして登場します。

で、このバンド、今でこそマイナーですが、モンタレーにもウッドストックにも出演していたことでもわかるとおり、当時は本場シスコを代表する人気バンドでした。反戦メッセージソングありの、ヘロヘロなアシッドソングありので、いかにも60年代の大学生のにーちゃん達が好みそうな音です。

アルバムは最初の3枚くらいはどれも出来がいいのですが、ジャケが一番サイケで激チープオルガンも活躍する、この1st(1967)を挙げておきます。

RE-ANIMATOR 死霊のしたたり3


すごいよなぁ、このタイトル。もうこれだけでB級ホラー気分だもん。

これは80年代後半に制作された「死霊のしたたり」シリーズの、実に15年ぶりとなる続編(2003)です。CG技術の進歩などで、SFXがどんな風になってるのかと思いましたが、心配は無用、ぜんぜん変わってませんでした。

CG使ってるな、ってとことろもありますが、目立たないように使われてて、スクリーミング・マッド・ジョージの特殊メイクも昔のまんま。主役のジェフリー・コムズもほとんど変わってなくて、冒頭のタイトルバックとテーマ曲もまったく同じ。懐かしい~って感じでした。

お話は単純明快。蘇生薬を注射された死者が生き返って、なぜかゾンビ化して凶暴になるという。それだけです。王道ですね。ストーリーなんて、あってないようなもので、ただおバカな展開を楽しむのが正解。最後はお約束の内蔵爆発、這い回る臓器、血まみれ、もう、ぐっちゃぐちゃ。素敵です。

なんとなく最初の二作よりおとなしくなってる印象もありますが、映画の舞台はほとんどが刑務所内での展開で、逆に低予算B級感は増してるかもしれません。今回の一番の売り(だと私は思う)は、ゾンビ化した男の喰いちぎられたアレが、これまたゾンビ化したネズミと追いかけっこをするという、なんともおバカな展開が爆笑もんでした。


それにしてもジェフリー・コムズ最高! マッド・サイエンティストで、かなりイッちゃってるんですが、なんだかいっしょうけんめいで憎めなくて、思わず応援したくなります。まだ「ロード・オブ・ザ・リング」撮る前のピーター・ジャクソン監督の「さまよう魂たち」(1996)という映画で、エキセントリックなFBI捜査官の役で出てたんだけど、それ観たとき、「この人、前に何かに出てたよなー・・・なんだったかなー???」と20分くらい悩んだことあったのが、ようやく氷解しました。

というわけで、B級ホラー再訪という感じなんですが、押入れを探したらありました。昔、レンタルをダビングしたビデオ。ユズナ関係のだけでも「死霊のしたたり」「死霊のしたたり2」「フロムビヨンド」。また、ゆっくり観てみよう。中でも「フロムビヨンド」がエロっぽくて好きだったような記憶が・・・。

実はわたくし、ホラー映画にはちょっとした思い入れがあります。なんせ、初めて女の子とふたりで観た映画が「ヘルレイザー」なもんで。観たあと、ちょと引きぎみの彼女を横目に、「すげ~!、すげ~!」とひとりで感動しまくっていたという思い出が・・・。


タイトル: RE-ANIMATOR 死霊のしたたり3 コレクターズ・エディション

レコード・コレクターズ 2002年7月号



私の知る限り、(ネオサイケ関係を除いて)サイケデリック・ミュージックを、その音源収集を主目的として総括的に解説した、日本で唯一の本です。

しかし、あくまで雑誌の特集記事なので、かなり広範で深いところまで踏み込んでいるとはいえ、グラビアも含めて百ページ足らずの分量は、やはり少々物足りない感じがします。

洋書では有名なFuzz, Acid and Flowersなどの本がありますが、日本でサイケデリック・ミュージックに特化されたガイド本は、これまで見たことがありません。

ロック革命時代


タイトル: ロック革命時代―1965‐1970 強者ロッカーを生み出したロックの激動期

これは1965年~1970年のミュージック・ライフ誌の記事を、広告などを含めてそのまま復刻したものです。面白いので、ビッグネームのバンドのデビュー当時の紹介記事をいくつか・・・。

ザ・バーズ
ちょっと見はイギリスはリバプールの出のようですが、れっきとしたアメリカン・ボーイズ。こちらもフォーク・ロックをうなります。ヒット曲は「ミスター・タンブリンマン」。

(以下、サイコデリック特集より)

ドアーズ
人気の点では、ジェファーソン・エアプレインといい勝負。何しろ「ライト・マイ・ファイア」を、三週間もの間、トップに置いたという実力派だから。ルックスもいいし、音楽的センスもいい、しかし、ただ一つ、余りにきれい事に走りすぎて、サイコデリック党員の資格を失いかねない状態にあります。

クリーム
イギリスからは、このクリームが代表選手ですが、ピンク・フロイドとともに人気上昇中。髪の毛はモジャモジャ、服装はインド・スタイル。ここまで徹底すればサウンドも自然とサイコデリックになろうというもの。有望株です。

マザーズ・オブ・インベンション
そのまま訳せば「発明の母」。そして、知る人ぞ知る、サイコデリック党の大親分的存在です。浮浪者かインド乞食かと見まがう恰好で、「音楽」などという表現が恥ずかしくなるほど、奇妙キテレツなサウンドで勝負。(原文のまま)

もう、差別用語なんか平気で連発だし、今のレベルからすると、とてもプロのライターが書いたとは思えないようなおおらかさが、ちょっとしたカルチャーショックでした。